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卒業特集2009


(27)競走部/木村慎太郎
自分の走りを

 10秒21――。速報を伝える電光掲示板に表示されたのは、紛れもない好タイムだった。日本選手権大会3日目、100メートル予選第4組目での一幕。木村慎太郎(スポ)はこの日、どよめきと静寂が激しく移ろい行くホームストレートを一直線に駆け抜けた。これまでは世界大会といっても、相手になるのは将来を有望視される海外の学生たちのみ。だが、これは本当の意味で全世界の人々を相手にとり、最速への挑戦の幕が開けた瞬間を意味していた。ただ、それは木村がこれから辿る物語のほんの序章に過ぎなかったのかもしれない。

 「苦しいことばかりだった」。木村はこの言葉を以て自身の大学での4年間を総括する。これほどの人物の口からこのような言葉が発せられるのは、いささか意外なように思われるかもしれない。確かに、結果を見れば非常に素晴らしいものばかりだ。関東学生対校選手権(関東インカレ)や日本学生対校選手権(全日本インカレ)における数々の活躍、A標準突破、世界選手権への出場などの輝かしい実績。1年時から早大のお家芸とも言える4継(4×100メートルリレー)のメンバーに入り、懸命に自分に与えられた役割をこなしてきた。全日本インカレ制覇・日本選手権リレー10連覇を始め様々な舞台で偉業達成にも貢献。日頃から切磋琢磨(せっさたくま)する仲間と歓喜の一時を分かち合った。

 しかし、自分自身の走りの内容に満足することができないことも多かった。自分は足を引っ張ったにもかかわらず仲間に勝たせてもらった。個人種目の記録がなかなか伸びない。そんな言葉が浮かんでくる。ただ速い・勝つだけでは意味がない。自らの走りの内容が伴ってこそ。それが木村のポリシーだ。事実、日本選手権において100メートルで先のタイムを残したことに関しても、後に「『(風・天候等の)状況が良かった』と思った」と振り返る。手放しでは決して喜ばない。これこそ木村が自身の走りに接する態度なのだ。自らが過ごした4年間に感じた苦しさは木村の意識を物語っている。

 「(いまになって)少しずつ芽が出てきたかな」。苦しいという言葉と同時に木村はこのように語った。これまでは漠然としていた『世界』を疾走し、その中で身をもって感じ、考えることは多かった。すべてが自分の走りについての熟考へとつながる。その結果つかんだ自分の走りに対する新しい考え。未知の世界に身を置き、実際に走ることを経て、ようやく芽生えの時期を迎えた。世界との勝負の意識を胸に刻み、木村は新しいフィールドへと走り出す。もちろん、芽生えただけで満足する木村ではない。まだまだ前進し続け、自らが勝負すべき舞台で飛躍することを目指す。いつかは分からない。だが、木村が走ることを通して、芽生えの成果を表現してくれる時はきっと訪れる。 (記事 高畑章、カメラ 岡野宏美) 
    

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