13日のJr.選手権決勝戦。ワセダが3連覇を決めたその瞬間、喜びを爆発させる4年生達を嬉しそうに眺める選手がいた。後半10分にWTBとして出場し、ワセダ劣勢の空気をガラリと変えた井口剛志(2年)がその人である。「何よりも4年生のため」と試合に臨んだその想いは、前日まで遡る。
「ぶっちゃけた話をすると、実は昨日まで投げやりになりそうだったんですよ。僕もともとはFBで出場するつもりでいて、それを昨日の試合前練習の時に『出るとしたらWTBだ』と急に言われて…。なんでWTBだと、しかもなんで前日に言うんだと…。でも昨日みんなが書いてくれた寄せ書きを見ていたら、4年生の『楽しんで』とか『お前のカウンターなら絶対行ける』っていう言葉を見つけて、それで『俺何してねん』って、『小さいことに拘って、そんな場合ちゃうやろ』って。それからこの人達のために何が出来るかっていうことを考えられるようになって―」
「今日ようやく吹っ切れた」という井口は、試合で抜群の集中力を発揮する。前半のワセダの攻撃を、「順目に拘りすぎていた。帝京のDFラインを崩すために一つ逆を突いて、っていう見せ方もあってよかったと思う」と分析。すると、初のボールタッチでいきなりその布石を打つ。自陣深くでボールを受けると、帝京DFが待ち構えるライン際へ猛然とカウンターアタック。一気に3人を抜き去る突破で、帝京DFに迷いを生じさせた。また、「自分の一番の役割」と心得る”声”でもチームをあるべき方向へ導いていく。それまでゲームメイクに苦しんでいたSO吉井耕平は、「井口さんが入ったことで敵陣に入れるようになった」と、その存在の大きさを強調した。
ワセダに逆転のトライが飛び出したのは、井口投入の15分後。直後の心境を聞くと、
「僕その時(試合に)出てましたっけ?…いましたね、すみません(笑)帝京は隙を見せると一発でやられるので、すぐ次に備えてたと思います。嬉しいとかは全く無かった」
彼にとっての戦場は、ベンチであろうとグラウンドであろうと変わらない。常に相手と向かい合っている。その極限に保たれた集中力こそが、「試合の空気を一変」させられる井口剛志の真骨頂である。
ノーサイド直後の井口は冒頭で述べた通りだが、表彰式後、「お前が流れを変えた」というスタンドからの声援にも控え目に笑うのみ。そこには、たとえ一時でも試合を投げだしそうになった自分を責める気持ちがあったのかもしれない。
2009年、怪我に苦しみ続けた井口のシーズンはまだ始まったばかり。全ての悔しさを晴らすのは、昨年もメンバー入りしたあの舞台しかない。
もう一度、4年生のために―。
今週末から始まる大学選手権、注目のアカクロ争奪戦にまた一人、大型プレーヤーが名乗りを上げた。
ワセモバには「井口の情報をもっと」という声が届くほどの人気者。「(ファンへ)応援してくれる方々の存在は本当に大きいです。なんていうんでしょう…苦しい時の一番の支えですよね。ありきたりではありますけど、これからも応援よろしくお願いします」